夜勤のある暮らしと、音楽を楽しむ時間。
この住まいの計画は、「窓はできるだけ少なく、暗い家にしたい」というご主人の希望から始まりました。
一方で、奥様は暗すぎる住まいを望んでいたわけではありません。
閉じたい。でも、閉じすぎたくない。
一見すると相反する二つの希望を、どちらかに寄せるのではなく、建築のつくり方で調整できないか。吉岡町の家では、そこから外部との距離感を考えていきました。

窓を増やすのではなく、光の入り方を考える。
外観を特徴づけているのは、1,300mmを超える深い軒と、その下につくられたポーチ。さらに外側にはブロックを透かし積みとした壁を設けています。
室内を明るくするだけなら、窓を大きくする方法もあります。しかし、それでは道路や近隣からの視線も入りやすくなる。
そこで、室内と外部の間にひとつの「間」をつくりました。
深い軒によって直接的な日差しを抑え、透かしブロックで視線を遮りながら、光と風は通す。室内から外までを一度に開くのではなく、段階的につなげています。
マットブラックの外壁と深い軒によって生まれる陰影も、この家の表情のひとつとなりました。

ふたつの方向へ進める玄関。
暮らしやすさについては、特定の家事動線をつくるというより、家の中に行き止まりをできるだけつくらないことを考えました。
玄関からは、リビングへ向かう動線と、洗面へ向かう動線の二方向へ。
洗面の隣にはランドリーを配置し、その先の廊下からトイレ、脱衣室、浴室へ。さらにキッチンへ抜けることができます。
玄関 → リビング → ダイニング → キッチン → 廊下 → 洗面 → 玄関。
ひとつの大きな回遊動線をつくることで、帰宅、家事、入浴といった日々の行動を、決められた一本の経路に限定しない間取りとしました。

暗さを、単調にしない。
ご夫婦が以前見学された前橋市江木町のモデルハウス。その空間を気に入っていただいたことから、黒を基調とする落ち着いた雰囲気を引き継ぎました。
ただ、暗い色だけでまとめると、空間は単調になりやすい。
そこで取り入れたのが、格天井と幾何学模様です。
キッチン上部には梁を利用した格天井。玄関や吹抜に面する壁には、ラワンを幾何学的に割り付けています。
床のさくら無垢材も、壁に対して平行に張るのではなく、斜めに張るダイアゴナル張りとしました。
住宅の基本となる水平と垂直の中に、あえて斜めの線を入れる。壁と床に現れる異なる方向の線が視線を奥へ導き、黒を中心とした静かな空間の中に、少しだけ動きをつくっています。
吹抜の手すりに使ったエキスパンドメタルは、以前のT’s Garage Furnitureをご覧になったご主人からのご希望。店舗で使っていた材料を、そのまま持ち込むのではなく、ラワンでフレームを製作し、住宅の一部として納め直しました。
家具を置く場所から、空間を考える。
家具についても、建物が完成してから選んだものではありません。
計画当初から、リビングにはTGFオリジナルソファ「Ts-5 CHINCHILLA」を置くことを前提に、その寸法から周囲の余白を考えました。ダイニングテーブルもTGFオリジナルです。
ご主人が大切にしているものを飾る場所についても同様です。テレビ面には収納をまとめる一方、別の壁にはお気に入りのオブジェやベース、アートを飾るアクセントウォールと造作収納を計画しました。
家具や所有物まで含めて考えることで、完成したときに空白を埋めていくのではなく、暮らしが入る場所をあらかじめ建築の中につくっておく。
この家で大切にしたことのひとつです。
そして、ご主人の好みを中心に構成した住まいの中で、奥様の個室だけは別の世界としました。
「この部屋だけは、とにかく全部白く」。
天井、壁、床を白で統一し、廊下側では黒い建具も、室内側だけ白く仕上げています。
家全体を無理にひとつのテイストへ揃えるのではなく、その人だけの場所には、その人の好みをそのまま残しました。
吹抜を、性能の弱点にしない。
吹抜は、ご夫婦からの要望ではありませんでした。
この住宅で初めて本格的に採用するダクトレス全館空調「THERMO SHELL」を効果的に機能させながら、上下階につながりをつくる方法として、ティーズからご提案したものです。
THERMO SHELLは、高気密・高断熱を前提に、第二種ハイブリッド式換気と床下・小屋裏エアコンを組み合わせ、ダクトに依存せず家全体の温熱環境を整えるティーズの仕組みです。
そのため、建物そのものの性能を徹底しました。
UA値は0.29W/㎡・K(計算値)。気密測定ではC値0.25c㎡/㎡(実測値)。
壁と屋根には吹付施工によるセルロースファイバーを採用し、壁にはさらに50mmの付加断熱。基礎も内側100mmに加え、耐圧版下まで50mmの断熱材を施工しています。
セルロースファイバーの吸音性は、夜勤のある生活やベースを楽しむご主人の暮らしとも相性の良い選択となりました。
引渡し前の8月、小屋裏エアコンを26℃設定で約一週間運転。
外気温が35℃を超える時期にも、測定時には一階がおおむね25〜26℃、二階も25℃前後となり、大きな吹抜を介してつながる空間でも上下階の温度差が小さいことを確認しました。
冬は小屋裏エアコンから床下エアコンへ切り替えます。最初の冬も実際の室温を確認しながら、この家に合った運転方法を調整していく予定です。

暮らしが始まってから、分かること。
引渡しから約一か月。点検で訪れた際、ご主人から「とにかく快適です」といっていただきました。
そしてもうひとつ。
「このソファの居心地が良すぎて、ここで寝てしまいます」。
性能も、動線も、家具も、完成写真を撮るためにつくるものではありません。
実際に暮らしが始まり、その家族にとって心地よい場所になっているか。
吉岡町の家は、ご夫婦それぞれの異なる希望をひとつにまとめるのではなく、違いを残しながら、ひとつの住まいとして組み立てた住宅です。
吉岡町の家|基本情報
| 所在地 | 群馬県北群馬郡吉岡町 |
|---|---|
| 構造 | 木造2階建て |
| 耐震性能 | 耐震等級3(許容応力度計算) |
| 断熱性能 | 断熱等性能等級6/HEAT20 G2水準 |
| UA値 | 0.29 W/㎡K |
| C値 | 0.25 cm²/m² |
| 断熱仕様 | セルロースファイバー+付加断熱 |
| 換気方式 | 第二種ハイブリッド換気 |
| 空調方式 | THERMO SHELL(ダクトレス全館空調) |
| 第三者評価 | 住宅性能評価・BELS取得 |
| 施工 | 株式会社ティーズオールワークス |






